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猫を抱いて象と泳ぐ 

猫を抱いて象と泳ぐ

猫を抱いて象と泳ぐ

著者:小川洋子
価格:1,780円(税込)
出版社:文藝春秋

オススメ度 ★★★★★(4.8ぐらい 心に余裕があるときにしっとりと楽しんでください)



昨年から図書館にオーダーしていて、やっと順番が巡ってきました。
この不思議なタイトル、どんな話なのだろうと色々想像しつつも、書評やあらすじなどは一切読まずに読みました。
著者さんの独特な世界観は、読み手によって好き嫌いが別れてしまうかもしれませんが、個人的にはとてもいい本だと思いました。
ここで紹介した「木のぼり男爵」や映画「海の上のピアニスト」がお好きな方には、是非とも、ページをめくって感じていただきたい世界が、小さな宝物箱のようにひっそりと静かにそこにただただあるのです。
(これから読まれる方はこの先は読まないで、どうぞ、なんの先入観もなしに本を開いてください!)
 
 
 
「博士の愛した数式」でも独特の世界観をかもし出した著者さんの新作は、8×8の世界のお話。
8×8の盤の上で動くのはキング、クイーン、ビショップ、ナイト、ルーク、ボーン・・・・・この物語は、伝説となったチェスプレーヤーのお話。

主人公は後にリトル・アリョーヒンと呼ばれる、存在自体が人に知られることのないチェスの名プレーヤー。
物語は、そのリトル・アリョーヒンの少年時代からの人生が丁寧に描かれてゆきます。

少年とチェスの出会いは、廃バスに暮らすマスターとの出会いから始まり、少年は瞬く間にチェスの世界に引き込まれていきます。狭い廃バスの中にマスターとその飼い猫1匹+少年、マスターお手製のおやつ、使い込まれたチェス盤と個性豊かな駒たち、こんな箱庭のような中で少年のチェスの世界は豊かに大きく広がってゆきます。

大きくなってデパートの屋上から降りられずそこで一生を終えた象のインディラや、太りすぎて廃バスの住居から出られなくなったマスター、いつしか少年の心には大きくなることへの恐怖が芽生えます。―――「成長することは悲劇である」

少年は大きくなることなく年を重ね、盤上の詩人とまで謳われたグランドマスター"アレクサンドル・アリョーヒン"をかたどった人形の中に入って対局するという独特のチェスのプレースタイルをとることとなり、これが彼が"リトル・アリョーヒン"と呼ばれるようになるゆえんで、彼と対戦した人の殆どが彼の素顔を知らず、ただ、彼と対戦した人の全員が彼との対局が生涯でベストの一局だと断言しており、そういう意味では、伝説のアレクサンドル・アリョーヒンが盤上の詩人ならば、リトル・アリョーヒンは盤下の詩人となってゆきます。

彼にチェスを与えた廃バスのマスターとその飼い猫のポーン、彼を支えた祖父母と弟、おてんばなプレースタイルの老令嬢、そして彼の一番の理解者であるミイラ(と彼が呼ぶ手品師の娘)、彼が心を開く人はみな、彼が愛するチェスの駒以上に個性的かつ宝物のような人たちで、彼自身は多くは語らないのですが、彼と接するこれらの人々から彼に発せられる言葉が、チェスの世界と同じようにとても深く広いのです。
8×8のチェス盤の世界と同じく、物語の世界はごくごく限られた世界の限られた人たちによって進んでゆくのに、形を変えていつまでもループし続ける不思議な広大さを感じてしまうのです。

埼玉県公立高校の入試にこの物語の一部がピックアップされたのは素晴らしいことだと思います。
埼玉の国語の未来は明るいかも。
願わくば、この問題を目にした今春高校生となった学生のみなさんが、この本に興味を持ってくれたら、受験がこの物語との出会いとなってくれたら、とても嬉しいことだなぁと思います。

私は小川洋子さんのセンスはかなり好きです。
決まりきった世界の中にもカオスがあって、秩序を持った理論にも命があって、そのなんとも表現しがたい美しさは時に人間の心を揺さぶるのだけれども、それを言葉でなるべく多くの人に伝えるということは並大抵の難しさではすまないと思うのですよ。でも、そこにあえてピントを絞るその勇気と、目には見えないけれど感覚で感じるワクワクするような美しさを手を変え品を変え伝えようとする静かな情熱が好き。そして、一生懸命に注がれた愛情がステキ。

この本を読み終わったら、チェスを知らない人でさえも、きっと「ビショップ」が少し好きになるもの。

欲を言えば、装丁がもうちょっとレトロな感じだったらなぁ・・・そこだけが少し残念。
 
 
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[2010/04/12 14:54] 書籍 | TB(0) | CM(0)

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