弟の戦争
著者:ロバート・ウェストール
価格:1,260円
出版社:徳間書店主人公トムの弟アンディは写真から人の気持ちを読み取ることのできる繊細で優しい男の子。
トムとアンディの間には、アンディを「フィギス」と呼ぶ、秘密の呼び名があった。
湾岸戦争が始まった夏、弟アンディの口から出たのは
「自分はイラク軍の少年兵だ」・・・・・という言葉。
この物語は主人公トムがどうの、その弟アンディがどうのという話ではないのです。
「戦争に正義はない」
これにつきます。湾岸戦争で言えば、アメリカが正義で悪者のイラクを成敗するのではなく、銃を持って戦う人に罪はなく、戦地の最前線で死にゆく人には敵も見方も関係なく待っている家族がいる一人の人間だということなのです。
イラク軍少年兵のラティーフを通して惨すぎる体験を目の当たりにする弟アンディは、最終的に精神病院送りになった後、一瞬だけ「フィギス」として意識を取り戻した間に兄トムに、マスメディアでは絶対に伝えられることのないイラク側の実情を多くの人に伝えてほしいと懇願します。
弟の主治医になる、心無い差別に心を痛めるアラブ系民族の精神科医ラシード先生も心優しい先生で、この兄弟に協力を惜しみません。
謙虚な死の修道僧たち。
サダムはもう数千を殺戮した。
だが、彼らは今、数万を殺そうとしている。
誇りや怒りや憎しみのためではない。
石油のために。 (136ページ)短くて単純な物語ですが、非常に考えさせられます。
アンディがこれだけ苦しい体験をして伝えたかったことに対して真摯に受け止めてくれたのは結局、兄トムとラシード先生だけ。
でも、この本を読む多くの子供に、大人に、それはストレートに伝わるでしょう。
弟アンディがフィギスとして心から願った
「こっち側(イラク側)がほんとうはどんなふうだったのか、どうしてもみんなに知って欲しいんだよ。ラティーフもアクバルもアリーも普通の人間なんだって・・・・」(144ページ)この願いが叶えられるよう、この短い傑作が一人でも多くの人と出会いますよう私もまた願ってやみません。
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またまたすばらしい本に出会いましたね。
なぜ人と人とは傷つけあうのでしょうか。
なぜ人は自ら死を選んでしまうのでしょうか。
そこまでの絶望を味わったことがないわたしは本当に幸せだと思えるけれど、いまの世の中はいつどこで歯車が狂ってしまうかわからない恐ろしさが潜んでいることも事実です。
戦争をして幸せになった人なんていないはず。
何度くりかえせば「学ぶ」ことを覚えるのでしょう。
人間はそんなに愚かなものではないんだと思いたいのにね。
[2008/01/20 01:48]
よっしぃ
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編集 ]
よっしぃさん>>
ロバート・ウェストールは、スタジオジブリの宮崎監督が愛する作家の一人なのだそうです。
宮沢賢治の童話のようにわかりにくいところもあるのですが、そこらへんはフィーリングでのりきってます(笑)
戦地の最前線で銃を持って戦う人に家族がいるように、その人々はまた「家族を守りたい」という一心で戦っていることも同じわけで、結局こう考えるとこの世から戦争がなくなるということは難しいのかもしれません。
おりしも憲法9条の改正が問題になってますが、改正派も改正反対派もどちらの言い分も正しく、本当に難しい。
武力以外に解決の道を探ることが可能な相手であれば、最後まで武力は行使したくない。
でも、それが最初から通じない悲しい国も世界には存在するわけで・・・。
でも、間違いない事実は戦争は惨いものということ。そして犠牲になるのはなんの罪もない人々だということです。
ロバート・ウェストール自身が戦争を体験してますので、彼の作品には戦争の状況の描写が多々登場しますが、個々人の悩みは多かれ少なかれ今と対して変わらないように思えます。学校の授業のこと、好きな人のこと、将来のこと・・。将来があるか悩むのではなく、今の子供と同じように活き活きと未来を描く。でも、それも戦争が酷くなれば容赦なく奪われてしまう。
温暖化対策でさえもまとまらない現状ですから、よほど痛い目にあうまで、残念ながら人間の目は覚めないのかもしれません。
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