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猫の帰還 

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猫の帰還

著者:ロバート・ウェストール
価格:1,680円(税込)
出版社:徳間書店


ロバート・ウェストールのタイトルの中で私が最も好きなタイトルです。
主人公は雌であるにもかかわらず「ロード・ゴート」(大陸派遣軍司令官ロード・ゴード卿の名前)と名づけられた猫が、戦争の真っ只中を自分の主を追って旅をするお話なのですが、淡々と進む猫の旅と、それが淡々と文字で綴られていく様が良い意味で独特の雰囲気をかもしだしていて、心に深く染み入ります。
 
1940年の春、ジェフリーとフローリーのウェンズリー夫妻の愛猫としてかわいがられていましたが、空軍パイロットである夫のジェフリーの出撃により、妻のフローリーはロード・ゴートを連れて田舎の実家へ疎開。
フローリーは生まれたばかりの息子に手一杯。連れてこられたロード・ゴートは(つまらない?)田舎暮らしになじむことができず、ジェフリーを探すため旅立ち、それを心配したフローリーが、疎開前の自宅に

ロード・ゴート ミッカ ユクエフメイ。ミカケシダイ シラセヨ。 フローレンス  (11ページ)

なんて電報を送信し、スパイ容疑をかけられる(なんてったって、司令官と同姓同名ですから、猫のこととはいえ電報を検閲した軍は大騒ぎ!)ことから物語りは幕を開けます。

そんな人間の騒ぎなんてどうでもいい都会っ子のロード・ゴートは、旅に出てさっそく腹ペコ。所詮は飼い猫ですから、初野良生活に悪戦苦闘の連続。しかし、飼い猫とはいえ、自分をかわいがってくれたご主人のジェフリーがどっちの方角にどれぐらい遠くにいるかは、ご主人を求める自分の心が教えてくれるため、迷うことなく、一路、ご主人目指して進んでゆきます。

フローリーの疎開先から旅立ったロード・ゴートは、旅の途中で様々な人々に遭遇するのですが、それがオムニバスになっているので、読み手も適度な感覚で一息いれることができます。

監視係のストーカーさん、駅のプラットホームで帰還兵のために食事を用意するおばちゃんたち、名前どおりおかたいスミス軍曹、馬飼いの心優しきオリー老人、夫を亡くし悲しみと絶望に打ちひしがれる未亡人スーザン・マリオット、爆弾処理班さん、爆撃機の尾部機関銃手のトム、そしてロード・ゴートの最後の友人となった牧師の奥様サンプル夫人。
旅の道程で様々な人と関わるロード・ゴートは、行く先々でちょっとした幸運をもたらします。
(イギリスでは、「黒猫」は幸運の運び手らしいです。)
ロード・ゴート自身も出産したり、たびたび危険な場面に遭遇したり。それでも旅はやめない。根を上げたりあきらめたりしません。

人間は、身近な動物から学ぶことがたくさんありますが、状況や場所を問わず、与えられた環境を受け入れ(与えられるものを選択するのは自分ですが)、自分と状況のラインを折り合わせて、時がくるのをじっと待ち、踏み出したら迷わないというロード・ゴートの生き様を、とても羨ましく思いました。人間はちっぽけなことで悩み、傷つき、焦り、迷うため、大切なことやものを見失やすく、それに気づきにくい。
余計なものは背負わないシンプルな旅路ではあるにもかかわらず、ロード・ゴートは決して淋しくはない。

巻頭に地図が掲載されていますが、ロード・ゴートの旅の道程が地図でも確認できるようになっているのは、読み手にとっては嬉しい配慮でした。

ちなみに、私が一番好きなストーリーは「未亡人スーザン・マリオットさん」のお話。
愛する夫を失い、彼女を悲しみと絶望の淵から立ち上がらせたきっかけは、一般常識がある周囲の善良な人間ではなく、なんの配慮もない腹ペコの猫でした。人生ってこんなもんだなーってしみじみと実感させられたシーンでした。

ロード・ゴートと一緒に旅をしてみませんか?観光名所なんて1つも出てこないけれど、ロード・ゴートになって進む旅路は忘れらないものとなるでしょう。
 
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[2008/01/26 22:47] 書籍 | TB(0) | CM(0)

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