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海辺の王国 

海辺の王国
海辺の王国

著者:ロバート・ウェストール
価格:1,470円(税込)
出版社:徳間書店


主人公のハリー・バグリーは12歳の少年。
両親と妹を空襲で失った夜からハリーの長い旅が始まります。
旅の途中で様々な人と出会っては別れるハリー。

何度もくじけそうになりながらもハリーが行き着く旅の終着点とは―――
 
 
孤児になったハリーが一番最初に出会ったのは、ドイツ・シェパードの「ドン」でした。
ドンも、空襲で飼主を亡くしたであろうみなしご犬。
このまま野良犬になってしまったら、ゆくゆくは警官に殺されてしまうであろう運命のドンを放っておくこともできず、ハリーは叔母の家に頼ることを避けて、ドンを連れて住み慣れた町を離れることを決意します。

まず、空腹なハリーは、町から少し離れたフィッシュ&チップス店に行きますが、ここのジムという店主が愚かな人間(「フランダースの犬」に登場するハンス並に嫌な野郎)で、ハリーは挫折しそうになりますが、捨てる神あれば拾う神ありで、ハリーは世の中の甘い辛いを初体験。

1つところにそうそう定住はできず、ハリーは次の場所を求めては旅に出るということを繰り返します。
いい人間もいれば悪い人間もいて、人生に絶望しかけた時には救いが、でも幸せは長く続くことはなく、また絶望感に襲われ・・・・・ハリーは実際にも旅をしていましたが、それはまたハリーの「人生」そのものの旅でもあるのです。

実際の本文から、その旅の一部を少し長いですが抜粋します。


(「海辺の王国」 71ページ-82ページ一部抜粋)

小さなテーブルの花瓶にたてかけてあるメモに気づいたのは、そのときだ。靴の紐を切ったらしい白いボール紙に、こう書いてあった。

   道に迷った旅人へ。
   友よ、よく来てくれました。ドアは開いてます。眠たかったら眠ってください。
   必要なもの、なんでも食べてください。戦争のさなかでものはたりないが、
   何か、あなたのために役立つなら、わたしたちはうれしい。
   朝が来たら、元気になって道を進んでください。
   使ったものは、つぎにくるこまった人のために、もとどおりにしてください。
   使ったものの代金を、できたら置いていってください。
   でも、できないなら気にしないでいいのです。
   わたしたちのために祈ってください。わたしたちも、あなたのために祈ります。
                        ジャック、ハリエット、スーザン、シャーリー

   追伸 わたしたちは、ここでいつも幸せだった。どうか、あなたもそうありますよう。
   また追伸 予備の石油はかんにいれて、外にあります。

メモのわきには、写真がある。写真立ては裏側の小さな脚で支えるようになっている。立ち襟姿の教区牧師。奥さんと二人の小さな娘。みんな、カメラに向かって笑っている。あふれるような暖かい微笑。なんてステキな人たち。
ハリーはあたりを見まわした。(75-76ページ)

[中略]

三日目にまぶしく澄んだ朝が来た。目が覚めて、雨がやんだことがわかると、ハリーははねおきた。カーテンをひきあける。なつかしい、青い空が、また一面に広がっていた。海の上には霧が出ている。今日はひどく暑くなる、というしるしだ。犬はそそくさと外に出ておしっこをし、車輌のまわりを狂ったようにかけまわっている。さあ、出発しよう、と言っているのだ。ハリーもその気だった。でも、まず、ベッドを直し、掃いたり、はたいたりした。よし、まあこれでいい。来たときはこんなもんだった。メモを書いた。「ありがとう。旅人より」写真の下に十シリング札を置こうか、ポンド札にしようか決めかねて、ちょっとうろうろしたが、結局、ポンド札にした。ものすごい量を食べてしまったし、食料は配給制なのだ。
かばんをとりあげたとき、海のほうから老人がやってくるのが見えた。老人ならぜんぜんこわくない。銀色の髪の老人は、杖にすがって苦しそうに歩いてくる。風邪が吹けば、とばされそうだ。この人が、たとえ僕を警察に届けようったって、行くのに何時間もかかるだろう。
「おはよう」老人は、ドアのところまで来ると言った。「いい犬だね」老人の目は鋭い。ハリーの顔、服、荷物、テーブルの上のポンド札。何もかも一目で見てしまった。「一ポンド残してくれてありがとう」
「ここに、三晩と二日いました。すごくたくさん食べてしまって・・・・・」
「いいんだよ、ぼうや。部屋も掃除してくれて・・・・・いい子だ」老人の声には、心からの感謝の思いのようなものがあふれていた。ハリーは元気づけられて言った。
「ここは、おじいさんのものですか?」
「いいや。息子のだ」
「牧師さんですね、ジャックという・・・・・」
「そう、ジャックだ。神よ、あの子を憩わせたまえ」
「あの、まさか亡くなったんですか?」ハリーの声は、どうしようもなくうわずった。
「そうだ。嫁もな。こどもたちも。ニューカッスルの空襲で。一年になる。みんな一緒に死んでしまった。牧師館にちっぽけな爆弾がおちたんだ。両どなりの家はびくともせんかった」
「でも・・・・・でも・・・・・」ハリーは車輌をながめまわした。「まるでみんな・・・・・」だが、続けられなかった。
「生きているように思えるか?そうなんだ。あいつらがどこかにまだいるなら、ここだろうよ。それでわしは、ここをもとのままにしとるんだ。休暇をわしの近くですごそうと思って、あいつらはここを買ったんだ。ここでは、ほんとに楽しそうだった。いつも笑ってた」
「お気の毒です」
老人はハリーの腕に手を置いた。
「そんなこと言わんでいいんだ、ぼうや。きみは、ここに来てくれたさいしょの客だ。わしは、ずっと、息子たちはばかじゃないか、と思っとった。留守のとき、ドアをあけといて、テーブルにあんな書きつけを残すなんてな。だが、ジャックは、いつもこう言っとった。悪人なら、どうせドアをけやぶり、窓をたたきわって入ってくる、それに苦労してはいってきたころには、怒り狂っちまってるだろうってな。歓迎してあげれば、家を大切にしてくれますよって。きみはジャックが正しかったことをおしえてくれた。ぼうや、ありがとうよ。おかげでここで生きてゆく勇気がわいたよ。きみがだれかは知らんが、神がおまもりくださるように」おちくぼんだ目から、涙があふれた。「名前は?ぼうや。宿帳に書いとくよ。最初のお客だ」
「ハリー・バグリーです」(79-82ページ)



抜粋から一瞬でもハリーの隣で旅をした気分になっていただければ幸いです。
これは長い旅の中のほんの一部分ですので、よろしければ、本書でハリーと旅の続きを楽しんでみてください。

フィッシュ&チップス屋のジムやブライスの農家のお百姓みたいな嫌な人間も登場しますが、変人なのになぜかいいやつのジョセフ、ハリーに息子を重ねる伍長のアーチおじさんなど、ハリーの心の支えになってくれる大人もあらわれます。

ハリーの旅の終着点はすごく意外な形で終わりを迎えますが(私は全く予想できなかったです!)、それはハリーの人生においての「少年期」の終わりでもありました。そして、ハリーの人生の旅は、またここから新たに始まってゆくのです―――「海辺の王国」を目指して。
 
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[2008/01/27 23:01] 書籍 | TB(0) | CM(0)

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